ディーゼルエンジン
ディーゼルエンジンは「ルドルフ・ディーゼル(1858〜1913)」によって発明されました。ルドルフ・ディーゼルは、数々の失敗をくり返したのち1892年に「今日知られている蒸気エンジンと内燃エンジンに取って代わる合理的熱エンジンの理論と設計」という論文を発表し、翌年にドイツの特許を得ました。この論文には、燃料と空気を別々に燃焼室に送り込み混合気の発生と共に燃焼させる「不均一混合」の原則、爆発に点火プラグを使わない「自己着火(圧縮着火)」の原則というディーゼルエンジンの基本原理が書かれています。
ルドルフ・ディーゼルの発明したディーゼルエンジンは圧縮比が高く、そのために爆発圧力も高くて騒音や振動が大きく、エンジンの各部を頑強に作る必要があります。頑強ゆえ耐久性は優れていますが、エンジン全体の質量が増す傾向にあり、精密で高圧な燃料噴射装置、始動時に必要な大容量のスターターやバッテリー等の採用により、エンジン価格も高くならざるを得ません。同じ排気量のガソリンエンジンと比較した場合、ディーゼルエンジンの各部が重いため、高速回転に制約を受けてエンジン出力は低くなります。その反面、内燃機関の中で最も熱効率に優れています。熱効率は、燃焼時の熱量を動力に換算した比率で、熱量に対して動力に変わる割合が大きいというメリットがあります。さらに、軽油は引火点が高く火災につながる危険性が少なく、高負荷、高圧縮比の燃焼に耐える頑強な構造により、一般のガソリンエンジンと比べて耐久寿命が約3倍もあります。また、点火装置も不要なため電気系統のトラブルが少ない等の信頼性に優れています。現在の移動式クレーンには、燃効率が良く燃料経費も安い直接噴射式ディーゼルエンジンが多く使用されています。
項 目 ディーゼルエンジン ガソリンエンジン
燃 料 軽油・重油 ガソリン
着 火 空気圧縮による着火 電気花火による着火
エンジン質量(馬力当り)
エンジン価格(馬力当り) 高い 安い
熱効率 良い(30〜40%) 悪い(22〜28%)
経 費 安い 高い
火災の危険度 少ない 多い
騒音・振動 大きい 少ない
冬季の始動性 やや悪い 良い
ディーゼルエンジンの作動
(1)2サイクルのディーゼルエンジン
2サイクルのディーゼルエンジンは吸入・圧縮・燃焼・排気の1循環をピストンの2行程で行うもので、クランク軸が1回転するうちに1回の燃焼が行われます。
ピストンが下降して吸入口が開きシリンダ内に過給機で強制的に新鮮な空気を送り込み、それと同時に燃焼したガスを外に押し出します。ピストンが上昇し始めて吸入口が閉じると、さらに上死点までピストンが上昇して空気が圧縮され、圧縮されて高温となった空気に燃料を噴射し、自然発火で燃焼(爆発)させてピストンを下降させます。
(2)4サイクルディーゼルエンジン
吸入・圧縮・燃焼・排気の1循環をピストンの4行程で行うもので、クランク軸が2回転してカム軸が1回転するうちに1回の燃焼が行われます。現在のエンジンには出力を増大させるために吸気を加圧する過給機を取り付けたものが多くみられます。
@ 吸 入
吸入バルブが開き、ピストンが上死点(最上昇の位置)から下降する間にシリンダ内に空気が吸い込まれます。
A 圧 縮
吸入バルブが閉じてピストンが下死点(最下降の位置)から上昇する間に吸入行程で吸い込まれた空気が圧縮されて高温になります。
ディーゼルエンジンは空気の体積を1/20前後に圧縮して600度以上の高温にします。
B 燃 焼
圧縮されて高温となった空気に、燃料噴射ポンプで100気圧以上に圧力を高めた燃料を噴射し、自然発火で燃焼(爆発)させてピストンを下降させます。
C 排 気
ピストンが燃焼によって下死点まで下がると排気バルブが開き、ピストンが下死点から上昇する間に燃焼したガスが排出されます。
ディーゼルエンジンの構造
ディーゼルエンジンは、エンジン本体の他に過給器・タイミングギヤ・クランクシャフト・フライホイル・吸気装置・燃料装置・排気装置・潤滑装置・冷却装置・電気装置等によって構成されてます。
(1) 過給器(スパーチャージャ)
エンジンの出力を上げるには、密度の高い空気をどれだけ大量にエンジンに取り込めるかが鍵になります。過給器は、圧力の高い空気を強制的にシリンダ内に送り込む装置で、排気の圧力でタービンを回転させて駆動させる方式とエンジンのクランクシャフトから動力を得る方式があります。
(2)タイミングギヤ
空気の吸入と燃焼ガスの排出には、各工程の必要な時期にバルブが開閉する必要があります。タイミングギヤはクランク軸の回転をカム軸に伝え、各カムの突起部分がそれぞれのプッシュロッドを押し、バネの力によって閉じているバルブを時期に合わせて開閉します。吸入と排気バルブの開閉の時期はカム軸とクランク軸の間に組み込まれるギヤの噛み合いで決まります。
また、噴射ポンプの噴射時期もタイミングギヤによって制御しています。
(3)クランクシャフトとフライホイール
クランクシャフトは、ピストンの往復運動を回転運動に変えるもので、コンロッドによってピストンとクランクシャフトをつないでいます。
フライホイルは、クランクシャフトのトランスミッション側に取付けられている円盤状の回転体で、いつまでも回り続けようとする慣性力を利用してクランクシャフトの回る勢いを保ち、回転むらを小さくするためのはずみ車としての役目を果たします。エンジンを始動させる時には、フライホイルのリングギヤにスタータのピニオンを噛ませてクランクシャフトを回してエンジンを始動させます。
(4)吸気装置
燃焼に必要な空気は、エアクリーナ・インテークマニホールド・吸気バルブ・シリンダの順に流れます。
@エアクリーナ
エアクリーナは、大気中のごみや埃をろ過する装置です。エアクリーナの汚損は、出力を低下させピストンやシリンダの磨耗を早めます。一定期間ごとに清掃、洗浄または交換をする必要があります。
Aインテークマニホールド
エアクリーナから吸気バルブまでの吸気菅です。
B吸気バルブ
シリンダヘッドには、空気の吸入と燃焼ガスの排出のためのバルブがあります。バルブは常にバネの力で閉じていてカムで押されて開きます。
(5)燃料装置
ディーゼルエンジンの燃料は、燃料タンク・燃料供給ポンプ・燃料フィルタ・燃料噴射ポンプ・燃料噴射ノズルの順序で流れ、シリンダ内の圧縮されて高温となった空気に噴射されます。エンジンの停止は、噴射ポンプへの燃料の供給をカットして停止させます。
@燃料噴射ポンプ
燃料噴射ポンプは、ガバナで燃料の噴射量を調整し、高圧の燃料を燃料噴射ノズルに送ります。ガソリンエンジンの場合は、混合気の量によって出力の調整が行われますが、ディーゼルエンジンは、空気の量は変わらずに噴射する燃料の量によって出力を調整します。
A燃料噴射ノズル
燃料噴射ノズルは、燃料噴射ポンプから送られた高圧の燃料を微細な霧状にして燃焼室へ噴射する装置です。
B燃料フィルタ
燃料フィルタは燃料をろ過して混入しているカーボンの粒子や金属粉等のゴミを取り除き燃料噴射ポンプや燃料噴射ノズルの不具合の発生を防ぎます。
(6)排気装置
シリンダ内で燃焼したガスは、排気バルブ・エキゾストマニホールド・エキゾストパイプ・マフラを経て大気中に排出されます。
@エキゾストマニホールド
各シリンダが出す燃焼ガスを一つに集合させるパイプです。
Aエキゾストパイプ
エキゾストマニホールドとマフラをつなぐパイプです。
Bマフラ
エキゾストマニホールドより送られたガスをそのまま大気中に放出すると急激な膨張によって大きな騒音を発します。マフラは、高い圧力で流れてきた排ガスの圧力を下げ、吸音材よって騒音を小さくします。
(7)潤滑装置
潤滑装置は、エンジンのシリンダ壁(シリンダライナ)、ピストンリング、各部の軸受等に潤滑油(エンジンオイル)を与え、磨耗や焼付きを防止する装置で、クランクケース下部のオイルパン内から潤滑油をオイルポンプによりオイルフィルタ、オイルクーラ、各潤滑部へと順に送り、再びオイルパンに戻します。各部品の金属が直接触れ合って回転運動や往復運動を繰り返すと金属の表面は擦れて磨耗したり高温になって焼き付きを起こします。潤滑油は、ミクロン単位の油膜を作り金属同士が直接触れないようにする働きがあります。潤滑油は、磨耗や焼付き防止の他に、冷却・清浄・密封・腐蝕防止の作用があり、機械効率を高めています。
@オイルポンプ
オイルポンプは、潤滑油を各部へ送る役目を果たし、クランクシャフトギヤによりアイドルギアを介して駆動します。(油圧装置/歯車ポンプ参照)
Aオイルクーラ
オイルクーラの原理はラジエータと同じで、エンジン各部へ運ばれるオイルを熱交換器の中に通して冷却し、適度な温度を保つように設けらています。
(8)冷却装置
エンジンはシリンダ内で燃焼が繰り返し行われて高温になります。冷却装置は高温になったシリンダを冷却する装置で、空冷式と水冷式があります。空冷式はシリンダの外側に空気に触れる面積を大きくした冷却ひれを設け、これに風を受けて放熱します。
移動式クレーンに使用される冷却装置は、エンジンシリンダの外側に水の流れる通路(ウォータジャケット)を設け、ラジエータからの冷却水をウォータポンプ・エンジン各部・サ−モスタットへ循環させます。
@ラジエータ
ラジエータには、放熱体のラジエータコア、冷却液を蓄えるタンク、ラジエータに風を送る冷却ファンが設けられています。冷却液は、やむを得ない場合を除いて水道水は使わず、水と凍結防止剤等を配合したロングライフクーラントを使用します。
Aウォータポンプ
冷却装置内を流れる冷却液を循環させる装置で、ファンベルトからの動力で羽根を回転させて水流を作ります。
Bサ−モスタット
冷却装置内を流れる冷却液の温度を見極め、冷却液をラジエータに流して冷却するか、あるいはそのまま循環させるかをコントロールするバルブです。
(9)電気装置
ディーゼルエンジンは、ガソリンエンジンに使用する点火装置は必要なく、一度始動すれば電気装置がなくても動き続けることができます。
@バッテリ(蓄電池)
バッテリは、スターティングモータ、ヒータプラグ等の電源となるもので、電気を蓄える充電作用と蓄えた電気を使用するために放出する放電作用を化学反応によって起こす蓄電池です。バッテリは、埃や汚れを取り除いて常に清潔に保ち、ターミナルが接触不良を起こさぬように時折閉め直します。バッテリのセルの中には、陽極板と陰極板が向かい合って設置され、電解液の希硫酸(硫酸を水で希釈したもの)が満たされています。希硫酸の水分は蒸発しますので液面が上限と下限の間にあることを確認し、不足の場合は各セルの液面のレベルを合わしながら蒸留水を補充します。また、寒冷地で長期間運転をしない場合、低温では容量が低下するため機体から取り外して保管します。バッテリを取り外す場合は、スパナ等で短絡(ショート)しないように注意します。移動式クレーンは、12Vのバッテリを二つ直列に配列して24Vとして使用しています。
Aスターティングモータ(スタータ)
スターティングモータは回転軸にピニオンを備えており、スタータのスイッチを入れるとモータが回転すると同時にマグネットスイッチが働いてレバーを引き、ピニオンが飛び出してエンジンのフライホイールのリングギヤに噛み合い、フライホイールを回転させてエンジンを始動させます。ピニオンは、始動が完了すると噛み合いが外れて元の位置に戻ります。
Bオイルネータ(交流式直流出力発電機)
オイルネータは、エンジンの回転をファンベルトで受けて駆動します。各種の電気装置に使われる電気はオイルネータで発電され、一部はバッテリに蓄えられます。ACジェネレータと呼ばれる交流発電機で交流を発生させ、内蔵している整流器と電圧調整器(レギュレータ)で、電圧の制御を行って適正な直流電流を出力します
Cグロープラグ(始動補助装置)
グロープラグは、エンジンの寒冷時の始動を容易にするために燃焼室または吸気を暖めて着火の手助けをする装置です。グロープラグには、副室式エンジン内を加熱するものと直接噴射式エンジンのマニホールド内の吸気を温める電熱式エアヒータの方式があります。保護金属管内部のヒートコイルに電流を流すことにより加熱します。
エンジンの性能
エンジンの性能は、燃料の消費率・どれほどの力が生まれたかというトルク・単位時間の仕事量を示す出力で見ることができます。
(1)燃料消費率
燃料消費率は、エンジンが1時間に1馬力の動力を出し続けたときに消費される燃料の量をグラム(g)で表します。
(2)トルク
トルクを分かりやすくいえば、クランクシャフトを捻ろうとする力です。エンジンは燃料の爆発力でピストンを押し下げ、それをクランクシャフトに伝えて回転させています。
1kgのトルクというのは、エンジンのシャフトから真横に1mの棒を延ばして、その先端に1kgのおもりをつけたときのシャフトを捻ろうとする力です。
トルクは、136kg・m/1400rpmというように表されます。これは、エンジンの回転数が毎分1400回転の時にシャフトから1mの距離に136kgの力が働いているという事を示しています。
(3)出力(馬力)
エンジンのパワーは単位時間にどれだけの仕事をするかということを馬力(PS)という単位で表しています。この考えは、蒸気機関を発明したイギリス人のワットによるもので、蒸気機関の性能を比較するために炭鉱で使われていた馬の動力を基準にしました。1馬力は550ft・1bf /sで、これをメートル法に換算すると75kgf・m/sとなり、1秒間に75kgの物体を1m引き上げる力ということになります。要するに、1秒間にどれだけエンジンのシャフトを回せるかを示しています。馬力は回転量、トルクは回転力であり
この二つには
「馬力=トルク×回転数」
という関係が成り立ちます。
馬力の正式なSI単位はワット(W)で表し、1 PSは735.4Wになります。




100MB無料ホームページ可愛いサーバロリポップClick Here!